2013年11月15日金曜日

2013年11月13日水曜日

『ジェリー・クリムゾン・ハレム』

『ジェリー・クリムゾン・ハレム』
〜少年と悪魔
巨人のくれた指輪を胸に 少年は砂漠に転がるしかなかった。
悪魔は言う。
おれには片足しかない。
翼ももげ 両腕も失った。
だが それは問題ではない。
それよりも この女神が 代わりを果たしてくれるということさ。
両腕も 片足も 両翼もな。
おれはすべてを手にしてしている。ということさ。
おまえはどうするんだ?
おれと来るかい?
この球の中では 色んなものが 日々 瞬間瞬間に蠢いているぜ。
そいつを見にいかないか?



〜世界
ただ 丸い。 と 思っていたものは 丸いだけではなかった。
軋み 歪み 畝り そしてそれは停止していない。
緻密に編み込まれているかと思えば ただ がらんとして その変化に気付けない程であった。
少年は悪魔に何か尋ねたい気持ちであったけれど 黙っていた。
そして見つめた。
わかるまで見ていようと思った。
と そのとき大きな風が吹いた。
少年はそれと同時に気付いた。
自分たちはもうすでに 風を感じる程に肉体を有してはいないのだ。ということに。



〜翼
まるで プラネタリウムのように 悪魔と少年は この世の働きを眺めていた。
もっと傍に寄って確かめてみたいのだが それは叶わない。
翼があればな。
渇いた声で悪魔が呟いた。
翼はもうない。
いつ 何処で どう失われたかも 悪魔は覚えてはいない。
他の者たちと同じ運命を辿ることに抗い いつの間にか この純白の砂漠に辿り着いていた。
その時にはもう翼は無かった。
残された右足だけを頼りに 杖をつくことも出来ず 砂漠を彷徨った。
白いばかりで目映く見通しの効かない残酷な世界に見えた。
暑くも寒くもない昼と夜が繰り返され 狂い出しそうになりながら 時には叫んでいたな。狂っていたな。
悪魔は思い出していた。
女神に出会うまでの 空白 を。
これが正しい記憶かどうか 自信が持てない。今となっては。



〜泉
女神に出会ったとき。
ただ そのときだけが 鮮明に記憶に残っている。
根もなく咲く肥った女神に 悪魔の心は激しく脈打った。
白い世界に 水が溢れて見えた。
虹色に見えた。光に感謝するのもこれが初めてだった。
愛を信じた。
神を思うようになった。
夜が寂しくなった。
やがて 怖くなった。
こんな幸福な出来事なんかないんだと 自分に言い聞かせようとしたが どうやら いまのいままでおれは幸せになってしまった。
悪魔は無言のまま 女神の小さく変形した左脚をぼんやり見つめていた。



〜肉体
ぼとん。と。
悪魔と女神に齎されたのは 両腕も両脚もなく 胸までの上半身を持った少年だった。
時折 こうして空から降ってきては そのまま枯れてしまうものもあれば 何時迄でも生きているものもある。
ただ 風化していく。
ひたすら長い時間 以前の記憶の中の世界よりはとてつもなく長い時間をかけて。
少年は眠っている。
悪魔は黙って目を覚ますのを待った。
悪魔にとっては 退屈などは無縁であった。
この眩いばかりの純白の世界に退屈などという時は存在しない。
肌で知ることの無い風がいつか静かに自らに眠りを齎すのを ただ待つばかり。
だが ここからこうして眺める天上の世界も砂漠も 常に有機的だ。
風を知るのは雲と砂の流されるためで とても身近で とても深遠だ。
手に届かぬ雲と 手に届く砂粒とが 絶えず時を報せる。
そして 時々こうして 生命 を齎す。



〜岬
あ そうだ。
悪魔は思い出したように呟いた。
おれは かつて ミイラだった。
あの 岬 で。
風。
風を感じる。
みるみる内に身体にあたたかさが灯る。
ああ 風だ。
夜空の星の瞬きでもなく
雲や砂の流されるのでもなく
肉体 が 風を感じている。
手をつなごうよ。
少年が右手を差し伸べる。
手をつなごうよ。悪魔さん。
いや
天使さん。


2013年9月3日火曜日

“言葉”

“言葉”

no words is the words

わたしの友人はそう言った。

わたしが思いや感情を言葉にしようと急くとき
この言葉がいつも脳裏を駆け抜け
次の瞬間には “言葉”が口から漏れ出ている。



「あなたは言葉をわかっていない」

昔から言われていることだ。

「わかっていないんだな」

と 自らを思う。



けれども

“言葉”がなんであるのか

決める必要があるのかどうかが わたしにはわからないので 自分流に使っている。

“言葉”の通じない人だっているじゃん。

その人たちに対しては 言葉なんかわからない方がいい。

でも

言葉わかる人たちと

もっと

理解し合いたいな と近頃 思う。